2025-10-28 日本的経営の三種の神器

日本的経営を特徴づける3つのポイント。「終身雇用制」「年功序列制」「企業別労働組合」を指す。日本企業の研究を行っていたアメリカの経営学者、ジェームズ・アベグレンが著書「日本の経営」で提唱した。高度成長期からバブル期にかけて日本企業を支えていたシステムだが、現在はほぼ死語になりつつある。

・終身雇用制・・・雇い入れた従業員を原則定年まで雇用し続けることを保証する慣行。従業員にとっては生活が安定し、安心して働くことができる。企業にとっては従業員の忠誠心を高め、また、長期的な育成が可能になるというメリットがある。もともとは、欧米に比べ、日本の労働市場が未発達であり、流動性に欠けていたことが背景にある。

・年功序列制・・・昇給や昇進など処遇の基準を、学歴、年齢、勤続年数に置くもので、勤続年数の増加とともに職位や賃金が上昇する仕組みである。終身雇用制と同様に、従業員にとっては安心感があり、生活設計が容易になる。会社にとっては人件費の見通しが立てやすく、離職率を下げる効果も期待できる。

・企業別労働組合・・・企業ごとに個別に組織された労働組合のこと。労使協調体制の基盤を提供する。従業員の待遇についてガチで戦うのではなく、会社が困らない程度のほどほどの落としどころを探る。納得の行かない従業員を会社に代わってなだめすかすという役割もある。昔は組合の役員が後に会社側の重役に就くケースも多かった。

お分かりの通り、三種の神器は全て人的資源を自社内に囲い込むために設計されている。たこつぼの中の従業員は会社に従順で、その会社でしか通用しないスキルやノウハウを身につけ、それなりの生活を送ることになる。したがって、企業としても個人としても「変化に弱くなる」という致命的なデメリットを持つ。

バブル期以降の「失われた30年」で収益力が低下した企業は、終身雇用制や年功序列制を維持する財務力を失った。人材の流動化を進める会社をいさめる力は、当然組合にもなかった。

今や労働市場も成熟し、中途採用者が新卒者より多い時代である。「同一労働、同一賃金」の原則もある。古い世代がノスタルジーにふけっても、意義を失ったシステムが復活することはない。