2025-10-28 職能主義と職務主義

人事制度を決定する際の二大コンセプトであり、日米企業の決定的な相違点と言われる。

職能主義は、それぞれの従業員が保有する職務遂行「能力」を基準に人事を実施していく制度であり、いわば「人に仕事をつける」という考え方である。一方の職務主義は、職務の価値や難度を基準に人事を実施していく制度であり、こちらは「仕事に人をつける」という考え方になる。日本企業は伝統的に前者を採用してきたが、欧米企業は後者が主流である。

人事制度を職能主義で設計する際には「職能資格制度」が採用されるのが一般的である。多くの場合、人の能力を10段階程度のグレードに分け、それぞれのグレードにいくつかの切り口から「こんなことができる人」という標語(職能要件)が記されている。対象となる人をその標語にあてはめ、その人のグレードを総合的に決めていくというやりかたである。このやり方で決定される基本給を「職能給」という。

職能資格制度は、グレード、あるいは賃金を決める基準が「能力」という漠然としたものだから、評価する人の裁量に大きく左右される。結果として昇格基準も曖昧なものになり、運用が年功的になりがちである。また、下位から上位への内部昇格を前提に設計されているため、職能要件にはその企業独自の価値観が色濃く反映されており、中途採用者などその価値観から外れる人には適用することが難しい。

一方の職務主義では、「職務等級制度」が導入されるのが一般的である。こちらは企業内のさまざまな仕事を、それぞれの重要度や難度に応じて等級付けした表(職務等級表)がまずあって、その人の仕事がその表のどこに当てはまるかを基準にする。この等級に沿って支給されるのが「職務給」である。

個人の側にはあらかじめその人に求められる職務内容、スキル、責任範囲などが書かれた「職務記述書」が手渡され、進捗確認や考課はここに記された内容に沿って行われる。

やるべき仕事の範囲がはっきりしているので習熟は早いし、「この仕事ができるようになれば一段階上がれる」といった目標も立てやすい。評価はその人が出した成果をもとに行われ、納得性が高い。「同一労働、同一賃金」の原則が貫かれ、中途採用者などにも適用しやすい。こうした点から、労働市場の流動性が高まった現代においては、こちらの職務主義のほうが徐々に主流になっていくと考えられている。

一方で「仕事が固定的になるため、スペシャリストばかりでゼネラリストが育たない」、「自分の仕事以外のことに興味が向かず、チームとしての仕事には適さない」といった批判もある。今後はこうしたデメリットをどのように解消していくかが課題になる。