2026-4-27 顧客価値①

このコラムでは「顧客価値」という言葉をしばしば使ってきたが、これまでしっかりした定義を行ってこなかった。

顧客価値とは、製品やサービスから得られる便益(ベネフィット)と、それに対して顧客が支払うコストの差から生じる価値、と考えることができる。その差が正であるときに限り顧客はそれを手に入れようとするし、同じようなものが複数あれば差分が大きい方を選ぶのが合理的な行動である。

それでは「便益(ベネフィット)」とは何か。この定義がまた難しい。腕時計を購入する例で考えてみよう。購入者の便益として考えられるのはまず「どこでも正確な時間を知ることができる」ということである。これは腕時計をつけているときとつけていないときの違いを考えれば自明のことであり、こうした製品の性能や品質による便益を「機能的価値」と言う。次に、特定の腕時計に対する信頼感や、それを所有することへの満足感といった心理的な便益がある。これを「情緒的価値」と言う。最後に、ある時計が欲しいと思い立ってから下調べをし、お店を訪ねて実際に購入する。買った後にそれをつけてお出かけをする、といった「それがなければ得られなかった経験」が与えてくれる便益である。これを「体験的価値」と言う。

お気づきの通り、機能、情緒、体験のどの便益に重きを置くかは人それぞれである。もっと言えば、さまざまな商品・サービスがある中で、腕時計というものにどの程度の便益を感じるかも人それぞれである。その意味で、顧客の便益とは極めて主観的なものと言うことができる。

一方の「コスト」もこれまた主観的な代物である。コストには「金銭的」「時間的」「心理的」などの種類があるが、どれをとってもその感じ方は人によって異なる。金銭と時間はもちろん測定することができるが、千円が高いか安いか、15分が長いか短いかの捉え方は人によってさまざまだ、という意味においてである。

こうなると、顧客価値とは「主観的な便益から主観的なコストを引いた、顧客それぞれの物差しで感じる価値」というわけのわからないものになってしまう。マーケティングという概念自体がわかりにくいと感じられる理由の一つかもしれない。

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