2026-5-5 競争次元

マーケティングにおける「競争」とは、例えばコカ・コーラ対ペプシコーラといったシンプルな戦いにとどまらない。市場というものの捉え方を変えて、いくつかの異なる軸から考えてみる必要がある。早稲田大学商学部の恩蔵直人教授はこの軸を「競争次元」と表現し、以下の4つの次元で説明している。

・ブランド競争・・・最も狭い競争軸。冒頭に述べたコーラの例や、アサヒビール対キリンビール、セブンイレブン対ファミリーマートなど、類似した製品やサービスを同じような顧客層に、同じような価格帯で提供する企業同士の戦いである。

・産業競争・・・類似する製品を供給するすべての企業を競合他社とみなす軸。ビールの例であればチューハイやハイボールも競合関係にあると考えられる。

・形態競争・・・製品としては類似していなくても、消費者が得られる体験や便益が同じであれば競合とみなす軸。ペットボトルの緑茶と急須で入れる茶葉のように、一方の消費が増えれば他方が減るような関係と考えると理解しやすい。

・一般競争・・・同じ消費者の財布の中身を争う企業のすべてを競合他社とみなす軸。よく引き合いに出されるのが携帯電話の料金とファッションへの出費の関係である。若者が服にお金をかけなくなったのはスマホが普及したせいだ、という恨み節をサラリーマン時代にはよく耳にした。

競争次元の考え方は、自社の事業を定義する「ドメイン」の範囲の取り方と直接関係する。自らを「ビール屋」と定義すれば同じビール屋の動向には注意を払うだろうが、他の飲料や、飲酒以外の気分転換については思いが及ばなくなる。この状態を「マーケティング・マイオピア(近視眼)」と言う。しかしながら、かといってドメインを広く定義しすぎると方向性を見失い、自社の経営資源をどこに集中していいかわからなくなる。

難しいところだが、一つ確信を持って言えることは、あくまで顧客ニーズを起点に物事を考えること、である。自社の製品を起点に市場を考えると思わぬ競合に足元をすくわれる。そのリスクは、捉えどころのない顧客ニーズを前に右往左往するリスクよりはるかに大きい。