2026-5-9 新結合

New Combination。シュンペーターが提唱した「イノベーション」の本質を示す概念である。よく知られている5つの新結合を以下に示す。

・新しい財貨の生産

・新しい生産方法の導入

・新しい販路の開拓

・原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得

・新しい組織の実現

新結合はしばしば「本当の意味で全く新しい発想などないのだ。イノベーションといっても既にあるものの組合せに過ぎない」という文脈で使われる。それは人の創造性の限界を嘆く否定的なニュアンスを醸しつつ、凡人を勇気づける響きも持つ。ここからは個人的な見解が入るが、シュンペーターのこの奥深い言葉について少し考察してみたい。

そもそも100年以上も前に、彼が新結合という概念を持ち出したのは、当時の社会に、それまでの経済理論では説明できない現象が次々と生じたからである。当時の経済学は(今でもそういうところはあるが)、仮想の世界に厳密な仮定を置いてモデル化し、「こうならばこうなるはずだ」と理論を組み立てるやり方が主流であった。この手法は、変化の少ない経済環境下では一定程度機能するが、それまでの常識を覆すような経済の動き(シュンペーター自身の言によれば「利子」や「恐慌」など)を説明することができない。シュンペーターが言う新結合とは、こうした「経済の不連続性」を説明するための道具である。

料理に例えると、食材は全て既知のものであるとしても、その組み合わせによって「未知の味」を生み出すことは可能であり、しかも組合せの可能性はほぼ無限にある。こうした、単なる足し算でなく質的な飛躍を伴う「組み合わせの妙」をシュンペーターは新結合と呼んだ。

もう一つ、シュンペーターが0から1を生み出す「発明」を否定していたかというと、それも事実ではない。彼は「発明」と「イノベーション」という言葉の定義を明確に区別していただけである。こちらも世の中の「0から1を生むことだけが創造だ」という強い思い込みに対するアンチテーゼと言えよう。筆者なりの言葉に置き換えて言えば「発明は確かに劇的に世の中を変える。だがその頻度は稀で、発生は偶発的である。イノベーションは発明とは異なり、既知の要素を意図的に組合せ、社会に不連続な変化を起こすものである」という感じになる。この思想はのちにドラッカーに引き継がれ、彼の著書「イノベーションと企業家精神」を貫く主張になる。

シュンペーターとドラッカーの違いは、新結合を起こす触媒としての「アントレプレナー(企業家)」を特別な存在(ある種の突然変異種)と見ていたかどうかという点であろう。シュンペーターはイノベーションの事例として、例えば馬車製造業から自動車製造業への変化を、個人レベルの分析によって説明しようとしている。他方ドラッカーは、社会的なイノベーションは「すでに起こった未来」の変化から生じるギャップを埋めるものであり、やり方さえわかれば誰にでも再現可能な技法だと主張した。