2026-5-11 コールの企業家史学

シュンペーターとドラッカーをつなぐ研究者として、アーサー・コールを紹介する。

シュンペーターは「創造的破壊」を引き起こす企業家(アントレプレナー)を突然変異種のように捉え、彼らの個人的な資質、すなわち才能や直感の側面を強調した。これに対し、企業家精神は個人に宿るものではなく、組織として情報を収集し意思決定を下すプロセスであることを明らかにしたのがコールである。コールのチームは歴史上の企業家の行動特性を数多く分析し、企業家精神の発現は個人的な素質というより、その時々の社会環境の影響を強く受けることも合わせて証明した。

コールの白眉は、シュンペーターの創造的破壊というダイナミックな概念をより学術的・体系的に整理するために、「何が変化(企業家活動)で、何が変化でないか」という境界線を引こうとしたことである。彼によれば、過去の成功パターンや既定のルールに従って資源を効率的に運用するだけの活動は「ルーティン」であり、どれほど大規模であっても企業家活動ではない。企業家活動とはルーティンからの逸脱であり、過去の意思決定パターンからの「不連続な変化」なのである。

この主張は、コールの企業家史学が実証主義的なアプローチを踏んでいたこともあり、その後の経営学に大きな影響を与えた。組織学習理論の「シングルループ・ダブルループ学習」や、現代の「両利きの経営」理論につながるものである。

コールの活動時期はドラッカーが執筆活動を始めた時期と重なっており(1950年代)、二人の主張には類似点が多い。コールが目指したのは企業家活動の科学化、すなわち再現性の担保であったと考えられるが、ドラッカーはこれを「誰もが学ぶことができる体系」に昇華させたと言える。企業の目的は「顧客の創造」であり、そのための基本機能は「マーケティング」と「イノベーション」しかない、とするドラッカーの主張は、こうしてみるとコールの「ルーチン」と「変化」というコールの切り分けをきれいに踏襲している。

多くの産業が成熟期にある今、これまでのやりかたでは成長はおぼつかないという危機感から、新規事業を志向する企業は多い。その一方で「日々のルーティンに追われて変化を起こせない」という悩みもよく耳にする。これはまさにコールやドラッカーが数十年も前から取り組んでいた課題なのである。