2026-5-13 サイモンの組織変革

20世紀半ばを活躍時期とするハーバード・A・サイモンもまた冷徹なリアリストである。彼は、神ならぬ人間は情報収集や認知に限界があるため「限定された合理性」しか持たず、限られた条件の中で手を打つ「満足化基準」で意思決定を行う存在だと喝破した人である。サイモンによれば経営者の興味・注意力は貴重な経営資源であり、それをどこに振り向けるかは組織にとって極めて大きな意味を持つ。その注意の方向性を決定づけるメカニズムが限定された合理性だというのである。

サイモンは組織を「意思決定とルーティン化を繰り返す存在」と捉えた。限定された合理性によりなされた意思決定は実行に移される際、今度は組織の経営資源を節約するため「ルーティン化」される。いったんルーティン化された業務は以降あまりその意味を問われることなく、効率的に遂行されるようになる。

ここまでは有名な話である。しかし筆者は、サイモンの真骨頂は、経営者が「満足化基準」を得られないときに起こす組織行動の考察にあると考えている。この部分を少し深掘りしてみよう。

外部環境が変化し、自社のルーティン化された業務の繰り返しではどうやっても満足できる結果が得られそうもない(不満足である)という状況は、常に生じうる。サイモンによれば、そのようなとき組織がとる行動は以下の通りである。

1.外部探索活動の強化・・・それ以前は「まあこのあたりで」と手を打つことができた情報では不満足なのだから、新しい可能性が開けるまで必要な情報を探し続けることになる。これは現代の「両利きの経営」における「知の探索」の概念に通じる。

2.不連続な意思決定・・・それまでとは異なるパターンの意思決定が行われる。その時点で社内に根付いているルーティンでは対応できないことは明白だが、現場はルーティンの変更に強い抵抗を示す。

3.高度な抽象化・・・経営者は新たな意思決定の根拠を示し、現場を説得するため議論のレベルを上げる。「そもそも我々の目的は・・・」「お客様にとって良いこととは・・・」といった類の、現場としても反対できないレベルの抽象化である。こうしてコアな部分での現場の合意を取り付け、ルーティンの改廃に着手させる。

4.ルーティン化・・・抽象的な概念のままでは組織は動かない。今度は具体的かつシンプルな目標を設定し、業務プロセスをその達成に向け最適化する。ここに至ってはそもそもなぜこの変革が必要かの議論はなされず、ただ業務をどう組み立てるのが最も効率的か、という点に意識を集中させる。

以上をまとめるとこうなる。

新たな情報の探索(不満足の解消)→不連続な意思決定(惰性の解消)→抽象化(対立の解消)→単純化(混乱の解消)→定型化(疲弊の解消)

何とも実践的というか、実務感覚にフィットする手順である。組織を変革する時の「標準プロトコル」と呼んでもいいかもしれない。

筆者は「売上」をフックにしたコンサルタントだが、売上を上げようとすれば組織の課題に手をつけなければならないケースも多い。そうなると人と人の問題になり、感情面も含めた面倒くさい部分に首を突っ込むことになる。そんなときに対立の解消に向けた具体的な手順を持っているか、それとも「私の専門は売上なので」と逃げてしまうか、そんなところでコンサルタントの質は決まると思っている。本当にその企業を良くしたいのであれば、逃げるわけにはいかないはずである。