2026-5-14 リッカートの組織開発

活躍時期は20世紀の半ば、マズローやマグレガー、ドラッカーと同時代の人である。マネージャーはある部門の長であると同時に上位部門との連結者であるという「ピンモデル」の提唱者であることは以前に述べた。また、圧倒的なデータの量と質を誇る「ミシガン研究」により、従業員が意思決定に参加する「参加型」の経営が最も高い業績をあげることを実証した人でもある。

リッカートの白眉は、ミシガン研究の結果から導き出された以下の3つの変数の関係性である。

①因果変数/②媒介変数/③成果変数

①の因果変数は経営戦略やリーダーシップ、組織構造など、目標達成のため企業が用意する道具立てであり、③の成果変数は売上や利益など最終的な成果である。そして、②の媒介変数は従業員の意欲や態度、相互信頼といった組織の健康状態を指す。多くの経営者は①が③に直結すると考えがちだが、実際には人間的側面である②が成果変数に大きく影響する、というのがリッカートの主張である。道具立てが優秀でも施策を動かす人間が機能しなければ成果は減少することもあるし、最悪マイナスに転びもする、という点では、②は①に対し乗数的に作用すると考えてよい。

たいていの場合、企業は業績が下がると新しい戦略や厳しいルールを投入して立て直そうとする。しかし、信頼関係や納得感といった媒介変数が低下している組織ではほとんど効果は期待できない。現場に「自分ごと感」が生じないからである。多くの読者は既視感を感じられるのではなかろうか。

もう一つ、リッカートが「人間資産」という概念を提起していることも見逃せない。人はコストでなく資産である、という考え方である。これはほぼそのまま、現代の「人的資本経営」に当てはまる。リッカートは人を資産として勘定科目に上げる方法を非常に具体的に示しており、無茶な使い方をすれば人の資産価値が減少するので業績が悪化すると述べている。目先のカネが惜しくてろくにメンテナンスをしない設備と同じで、短期的には利益が上がるかもしれないが、長続きはしないというのである。

もっとも、以上の説明をもってリッカートが人道主義者である、と思い込むのは正確でない。彼はあくまで「業績を上げるにはこうした方が得ですよ」と言っているにすぎず、従業員の幸せに焦点が当たっているわけではないからである。この点においては、マネジメントの3大目的の一つを「人を生かすこと」としたドラッカーのほうが、よほど目線がやさしい。