2026-5-22 ペンローズの企業成長論②
前回述べたように、ペンローズは「経営資源そのもの」と「経営資源から引き出される働き」を明確に区分し、前者を「資源の束」、後者を「サービスの束」と呼んだ。この、資源の「束」という呼び方は、一つの経営資源でも使い方によってさまざまな働きをすることがある、という考え方を含んでいる。例えば、同じ人がプロジェクトチームで本来の仕事とは別の貢献をする場合もあるだろうし、ある設備が複数の製品に応用可能な場合もあるだろう。そしてサービスの「束」とは、そうしてさまざまな資源から取り出された働きの組合せによって、企業にとって有用な成果物が生み出されるイメージである。「実行可能な施策の束」と言い換えても良いかもしれない。
ペンローズは同じような経営資源を持つ会社でも、その組み合わせ方や組織の知識・経験によって引き出される「サービスの束」が異なり、だからこそ企業はそれぞれの道を歩むし、成長のスピードにも差が出るのだと説いた。
もっとも、ペンローズの言う「サービスの束」は、マーケティングで言う「便益の束」とは異なる意味合いを持っていることは押さえておきたい。彼女が言うのは、自社が持つ経営資源から何ができるか、どんな新しい活動や機能を生み出せるか、という企業側の可能性の広がりである。一方、マーケティングで言う「便益の束」は、顧客の側から見て、企業の製品やサービスが自分にどのようなメリットを与えれくれるか、という受け手側の価値のことを言っている。両者は同じことを内と外から説明しているようにも見えるが、実は企業が志向する可能性の方向が顧客の側から見るとズレている、ということはしばしば起こる。
例えば、技術や性能の高さと顧客が感じる価値を混同してしまうミスはかつて多くの日本企業が陥った罠である。技術主導のスタートアップが「誰も欲しがらない完璧な製品」を作ってしまう失敗もよく見られる。したがって、経営者に求められる第一の能力は、顧客にとっての便益の束を的確に捉えることだと断じて差し支えない。無限の可能性を秘めた「資源の束」からどのような「サービスの束」を引き出すべきか、という問いは、顧客が求めているものを真に理解した上で発せられるものでなければならない。

