2026-5-23 ワイクのセンスメーキング理論①

これまで見てきた通り、企業が旧弊を打破し自ら変革していくための組織論は、統計学的な手法を用いたコンティンジェンシー(状況適応的)アプローチが主流であった。ガルブレイスの組織デザイン論はその代表格と言える。一方で、1970年代に入ると全く別の学問分野、すなわち生物学や進化論を基礎とした創造性の理論が提唱され始めた。その端緒がカール・ワークの「組織化」論である。

ワイクは、組織とは構造や制度により固定化された「枠組み」ではなく、常に変化し、更新され続ける動的なものだと捉えた。名詞のオーガニゼーション(組織)でなく、進行形の「オーガナイジング(組織化)」という言葉を好んで使ったと言われている。「最初から完璧な適応計画を持っている生物なんていないでしょ。組織だってそうだよ、環境にぶつかりながら、偶然と生存競争の中で自ら形を変え、何とか生き抜こうとするのが組織のリアルなんだ・・・」ワイクの論を平たくしてしまうと、ざっとこんな感じになる。

その上でワイクは、組織が不確実な環境に適応しようとする際のプロセスを、ダーウィンの進化論になぞらえて展開した。それがワイクの代名詞ともいえる「センスメーキング理論」である。

センスメーキングは「意味づけ」や「納得」と訳されるが、日本語にしにくい言葉である。英語の語感から言うと、入山章栄氏が使った「腹落ち感」という訳語が一番近いように思う。未知の状況に直面したとき、組織が「今何が起きているのか」を解釈し、納得のいくストーリーを創り出すプロセスを指す。以下、進化論と対比しながら解説を進める。

1.淘汰(突然変異):遺伝子の突然変異によって新しい種がランダムに誕生する。ワイクの組織論では、混沌とした状況に向かって「まず行動してみる」ことで、組織が新環境についての皮膚感覚(手応え)を共有する。

2.選択(自然淘汰):生まれた変異種のうち、たまたまその時の環境に適応した個体だけが生き残る。ワイクの組織論では、行動によって生じた結果や手応えに対して、「これはどういう意味か」を解釈するステップである。数ある解釈の中から、今の状況に最もしっくりくるストーリーが選択され、他は捨てられる。これが「腹落ち」である。この選択には、それぞれの組織に固有の理念や風土が大きく影響する。

3.保持(記憶の保存):生き残った個体の優れた遺伝子が種として保存される。ワイクの組織論では、組織内で腹落ちされた意味づけが、組織内のルールやマニュアル、あるいは不文律として記憶される。

ワイクの理論は、「全ての物事はそれを認識した人の心の中にある」とする「認識論的相対主義」に立っている(これに対して「世の中には唯一絶対の”事実”が存在する」とする考え方を「実証主義」と言う)。同じ状況に遭遇しても人それぞれ「事実」の受け取り方が違う、ということは、日本人なら芥川龍之介の「藪の中」(あるいは黒澤明の「羅生門」)を通じて先刻承知である。このままでは企業自体が立ち行かないほどの環境変化に直面していても、それを「危機」と認識しなければ組織は変化しない。そして、そういう企業は遅かれ早かれ淘汰される。ワイクが言うのは、そういうことである。

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