2026-5-25 オートポイエシス
ギリシャ語で「自己生成」を意味する言葉で、もともとは生物学用語である。例えば細胞は外から材料を取り込み、自分と外を区別する膜を作り、自分に必要な部品を作り、壊れたら修復する。こうして、自分を構成する要素を自身で再生産する存在こそ生物である、とする考え方である。ニコラス・ルーマンはこの概念を企業などの組織にあてはめた。ワイクと同様、生物学に源流を持つ経営思想家である。
ルーマンは、組織とは単なる人の集まりではなく、「コミュニケーションの連鎖」であると考えた。どんな企業でも100年すれば全員が入れ替わるのに、組織は以前と同じように存在している。まるで細胞が全て入れ替わっても元の姿をとどめる生物のように。これは組織を動かすのが構成員一人ひとりの能力や意志ではなく、別のシステムである証拠だ、というのがルーマンの議論の土台になる。彼はそのシステムの正体を、組織内のコミュニケーションであると考えた。
コミュニケーションと言うと少しイメージしにくいが、例えば会社内の報告や会議、稟議、人事・評価制度などは全てある種のコミュニケーションと言って良い。こうしたさまざまな仕組みやそれらのつながりが組織そのものであり、その組み合わせや流し方の違いが、一つの会社を別の会社と違う特別なものにする。社員が「この会社おかしい」と思っても組織の中で通らないのは、この「コミュニケーションの鎖」が再生産のための生命維持装置であり、簡単には変化を許容しないからである。
組織変革に対するルーマンの視点は冷徹である。一人の革新的なリーダーが登場しビジョンを語ったところで、これまでの環境に最適化された生命維持装置が揺らぐはずもない。組織を本当に変えようとするなら、組織を組織たらしめている一つ一つのコミュニケーションにこそ手を入れるべきだというのが彼の考え方である。報告や会議のやり方を変え、評価のしかたを変え、賞罰や昇進の基準を変えることでしか変革は起こせない。このアプローチは、経営者の理念やビジョンを重視したドラッカーとは大きく異なり、また、マッキンゼーの7Sよりガルブレイスのスターモデルに近いと言える。
「何でわかんねえかなぁ、会社はよぅ」というサラリーマンの愚痴を生物学から解き明かして見せたルーマンに着想には驚かされる。確かに、組織の中に存在するあの得体の知れない力には、生物の生存本能に似た強靭さとねっちこさを感じさせるものがある。
<関連記事>

