2026-5-28 アクター・ネットワーク理論①

Actor Network Theory(以下ANT)。人だけでなくモノや技術、自然、制度といった「人の周囲にあるもの」もすべて対等な「役者(アクター)」として扱い、それらがどう結びついているか(ネットワーク)を見ていくことで社会の現象を説明しようとする社会学の理論である。1980年代にブルーノ・ラトゥールらにより提唱された。

筆者がスマホで友人に連絡を取るとしよう。通常は「私が友人にメッセージを送った」と考える。ANTではこれを「私とスマホ、電源、アプリ、通信会社のサーバ、電波、ルーター、基地局などが全て機能し、連携できたので友人にメッセージが届いた」と表現する。この考え方の根底には、社会とは固定された枠組みではなく、さまざまなアクターが登場し、退場し、あるいは結びついて離れてを繰り返す存在であるという認識がある。ANTは、ある現象を説明するにはこうした要素のつながりを一つずつ追跡することが必要だ、と考える学派である。

この理論は、組織論の文脈において、「意思決定と実行のギャップ」を説明する強力なフレームワークになっている。ガルブレイスは組織を情報処理システムであるとしたが、処理された情報(意思決定)がバーナードの言う「人間行動の体系」に直接結びつかないケースはいくらでもある。いわゆる「決めたのにやれてない」状態である。ANTではこれを「物理的なモノも含めたアクターたちのつながり」という視点で解き明かそうとする。

多くの組織は「決めたのにやれていない」状態に陥ると、「従業員の意識が低い」とか、「気合が足りない」という精神論で埋めようとして失敗する。ANTが教えてくれるのは、「人間の『やる気』のような不安定なものに頼るな。仕組み、空間、ルールや物理的な『モノ』を味方に付けて、自然と体が動き出すような舞台(ネットワーク)を作れ」ということである。

ラトゥール自身が持ち出した例がある。「ドアを開けたら必ず閉める」と意思決定がなされた場合、通常はドアに「開けたら閉める」と張り紙をして注意を喚起する。あるいは開けっ放しにした人から罰金を取るというルールを作るかもしれない。しかしANTではこのとき、「自動で閉じる油圧式のドアに取り換える」というアプローチを取るのである。

この、「カタチから入る」というANTのアプローチは、実は多くの企業で既に採用されている。官僚的な社風を打破するためオフィスの仕切りを取り払ったり、フリーアドレスを採用した会社はたくさんある。育児休暇や介護休暇の法制化もその一例と言えるだろう。

経営者や管理職の皆さん、「何度言ったらわかるんだ」と声を荒げる前にやるべきことがありそうです。

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