2026-5-29 アクター・ネットワーク理論②
ラトゥールによれば、アクター・ネットワーク理論(ANT)を現場に展開するにはいくつかのステップがある。
1.ブラックボックスの解体(既存資源の可視化)・・・組織の中にはルーティーンとして一つのパッケージになった仕事のカタマリがたくさんあり、普段はその中身がどうなっているのか考えようともしない。いわゆるブラックボックスである。ANTは個別要素のつながりを考えていくものなので、「この仕事、ばらすとどうなるの?」という要素分解の作業が最初に必要になる。書式フォーマットや作業手順、アプリなどさまざまなアクターが見つかるはずである。
2.新たな意味づけ(アクターの役割再定義)・・・可視化した個々の資源に新しい光が当てられないかを検討する。ある部門でお蔵入りになった技術が他の部門では生きるかもしれない。業務プロセス効率化の工夫は他部門にも横展開できるかもしれない。スリーエムで失敗作と思われた「はがれやすい糊」は、後にポストイットとして生まれ変わった。
3.結びつける舞台(接触空間の設計)・・・新しい意味を持ったアクターと、人間が日常的に、かつ自然に出会える「舞台」が必要になる。他部署の人とすれ違わざるを得ないオフィス導線の設計や、情報を共有せざるを得ないデジタルツールの導入などがこれに当たる。筆者は社内情報の共有を目的とした社内発表会を企画・実行したことがある。これは準備が大変で長続きしなかったが、それなりの効果はあった。
4.結びつける人(翻訳者の選定)・・・最後に、これらをつなぎ留め、新しいネットワークを強固にしていくリーダーを選ぶ必要がある。「こうしたら役立つよね、これ」とか「ここに使えば面白いんじゃない」と、現場の人が納得できる言葉で新しいアクターを実装し、あるいは古いネットワークとの調整を行える人である。自然発生的に生まれてくる場合もあるし、上から指名してあげないと動かないケースもある。
気をつけていただきたいのは、ANTは手法としてカタチ「から」変えるのであって、カタチ「だけ」変えるのではないということである。まず「何のためにこれを変えるのか」という目的がなければならない。どういう状態になれば成功なのか、というイメージも関係者が共有しておく必要がある。考えなしにふわっと変えようとすると、組織の復元能力によってすぐ元に戻ってしまうケースが多い。それだけならまだいいが、下手をすれば反発されて状況を悪化させかねない。
ルーマンが「オートポイエシス」と呼んだ組織の恒常性を揺さぶるやり方として、スローガンの連呼ではなく、個別要素に、かつ具体的に手を入れようとする姿勢は、ルーマンもラトゥールも共通している。違うのはルーマンが見ていた相手が言葉や制度、ルールや手順といった「目に見えないもの」であったのに対し、ラトゥールは「いやいや、それだけじゃなくてもっとベタな『物』も見ようよ」とした点である。ベッカードが言う組織変革の「最初の一歩」の具体例としても、覚えておいてよい理論である。
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