2026-6-3 コミュニケーションシステム論

組織を「コミュニケーションの連鎖」と喝破したニクラス・ルーマンの理論である。もともと社会学者であるルーマンは、コミュニケーションが次のコミュニケーションを生み出し、それによって政治や経済、法といった社会システムが自律的に維持されていると考えた。

法律の世界を例にとってみよう。ある状況に対応するため一つの法律ができる。それが次の問い、「じゃあこういう時はどうしよう」を生む。この問いは前に作った法律と矛盾することはできず、それを補完または強化する方向でコミュニケーションが進む。このように、「では次は」「その次は」という「問いと意思決定の連鎖」こそが社会システムの正体であるとルーマンは主張した。

この自己強化のパターンはまさに「オートポイエシス(自己生成)」であり、あるところまで進むとそこに異物の入り込む隙間はない。社会を変えようとする試みがたいてい挫折するのはこのためである。更に困ったことに、社会の各分野はそれぞれのコミュニケーション体系によって独自の進化を遂げており、互いに調和しない。「地球環境のためにCO2を減らそう」と誰かが叫んでも、経済は経済的合理性の観点から、法律は現行法との整合性からこれを拒絶する。

ルーマンはこうしたコミュニケーションシステムの力を非常に強力なものと見ており、基本的には「個人としてやれることはあまりない」と考えている。ただ一つ、社会、あるいは組織のシステムがそのやり方を大きく変える場合があるとすれば、それはそのシステム自体が「いままでのやりかたではでは生き残れない」という生存本能を働かせたときだと言う。会社で言えば、上層部だけが危機感を言いつのっているのではなく、末端まで「これはまずい」と感じている状態であろう。このときまわりに「異物」、すなわちこれまでと違う問いや意思決定のパターンがあれば、システムは自分が生き残るために(やむなく)それを採用する可能性がある。

更に、もしその異物が、これまでのパターンと共通する要素を部分的にでも持っていれば、システムがこれを取り込む可能性は跳ね上がる。先の環境保護の例で言えば、「炭素税」や「排出権取引」の導入などがこれに当たる。「北極の白クマのために」と聞いても一ミリも動かない経済システムが、「やらないと損をする」または「やれば儲かる」と言われれば一気に動き出すのである。

一度動き出せば今度はそれが前例になる。システムは勝手にその方向で自分を固め始める。そうなれば坂道を転がり落ちる雪ダルマのごとく、望ましい方向に勢いをつけることができる。

「組織の論理」は確かに強い。だが、あきらめてはいけない。危機感という刺激を与え続け、組織が自らのやりかたを自省し始めるのを待つ。そのときが来れば取り込むことができる異物(改革案)を、前もって仕込んでおく。その案はできれば、その組織が持つ価値観に沿う一面を持ち、抵抗なく取り入れられる工夫がされているとよい。読者が経営者でなく上司持ちだとすれば、最後の部分は上を通すためのテクニックでもある。

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