2026-6-5 実践論的転回

ひどく難し気なタイトルだが、わかってしまえば何ということはない。学者というのは未だに「とっつきにくい=格調が高い」と思っているフシがありそうである。

1970年代から2000年代の学術界において、経営学のみならず社会学、哲学等の分野で巻き起こった一大ムーブメントである。簡単に言うと「『実践』を中心に据えて世の中を見ていこう」という考え方である。

経営学の文脈で言うと、実践的転回が起きる前の説明体系はおおむね以下の2通りであった。

・システム・構造重視・・・人間はルールや組織図に動かされている存在だ、という引いた目線。

・ロジック重視・・・人間は常に合理的な計算に基づいて行動する存在だ、という経済学的な目線。

しかし、現実の社会はいつもルール通りに動くわけではない。常に頭で論理を組み立てて動くわけでもない。例えば有能な営業マンは営業マニュアルを隅々まで読み込んでその通りやっている、というよりは、場面場面の空気や相手の表情、絶妙な間といった、マニュアル化できない「日々の具体的な実践」によって成果を出している。だったら、ルールやロジックばかり研究していないで、人が現場で泥臭く動いている「実践」を学問の中心にしませんか、と、この頃、多くの学者がこういうことを言い出したのである。前回紹介した「実践の共同体」は、まさにこのブームのど真ん中で生まれた理論である。

実践論的な視点で見ると、例えば「知識」とは、座学でインプットする形式知ではなく、現場で身につける暗黙知である。「組織」とは規程や組織図ではなく、人々の臨機応変なやり取りの集まりである。実践的転回以降の学会では、さまざまな分野でリアルな現場の観察や調査、更にそれらの言語化や体系化が行われるようになった。

かといって、システムやロジックに目を向けることが不要になったわけではない。これらは人が物事を理解する時のいわば「思考の軸」である。経済学や社会学と同様、厳密な仮定を置いて「こうならばこうなるはずだ」という仮説を立て、現実に起こる事象とのズレを見ていくのがあるべき学問の姿である。そもそも背景に理論的な体系がなければ、実践的転回といえども、泥臭い現場のあれこれを羅列するだけのものに終わってしまう。

コンサルティングの世界にも似たようなところがある。中小企業診断士というそこそこの難関資格を持っている人間ならば、データ分析からシステムとロジックのズレを見抜き、「こう変えてください」と助言するところまでは、まあ皆できる。しかし、それを現場に落とし込み、根づかせるには「実践論的」なアプローチが不可欠である。しかし、実践論的なコンサル手法を説明するのは難しい。局面によって求められるアプローチが違う、というのも理由の一つだが、より本質的には、その手法というものが当該コンサルタントの姿勢や志、生き様といったところまでつながっているものだからではないかと思う。

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