2026-6-7 実践論的転回としてのSECIモデル
SECIモデルで有名な野中郁次郎もまた、「実践論的転回」の流れを汲む一人である。彼の理論は「暗黙知」を「形式知」に転換することをもって「知識創造」と定義する、というものだから、一見すると形式知のほうが格上のように感じられてしまうが、実はそうではない。人々の中に血肉となってしみついた身体知(暗黙知)を彼ほど重要視した人もいない。
SECIモデルについて、実践という観点からプロセスを俯瞰してみよう。
・共同化(S)・・・現象学においては、他者と世界を共有することを「相互主観性」と呼ぶが、野中の言う「共同化」は、まさに言葉を交わす前の身体的な共通感覚を指す。この感覚は共通の体験、日本的な表現だと「同じ釜の飯を食った」時間から生じ、他者の身体的技法や暗黙の間合いを写し取るプロセスを含む。「言葉にはできないが、こいつのことは何となくわかる」というイメージである。
・表出化(E)・・・身体的な実践の中でつかんだ直感(暗黙知)を言語化し、他者がアクセス可能な形にしつらえる。野中によれば、このプロセスは単なる「属人的技能のマニュアル化」といった生易しいものではなく、互いの信念や価値観をぶつけ合う全人格的な応酬である。「いやいや、そんな簡単な言葉で片づけないでくれ」「俺はそこだけは譲れない」・・・。こうしたやりとりを、野中は「知的コンバット」と呼んでいる。
・連結化(C)・・・表出された概念を組織内の他の制度、ツール、既存の形式知と組み合わせ、組織が新たな実践を行うための体系(理論やシステム)を再構築する。いわば、知的コンバットによって得られた新しい知識をちゃんと動かせるように、今の仕組みと整合させていくプロセスである。
・内面化(I)・・・体系化された知識を個々のメンバーが日々の活動の中で実践し、意識しないでも動かせる身体的スキル(暗黙知)に鍛え上げる。人には個性があり、同じスキルでも実践の中で細かなアレンジがなされていくから、それぞれのスキルは少しずつ変化する。これらが新しい暗黙知としてメンバーの中に根付いていく。SECIモデルはループ、というか上昇するスパイラルであるから、この暗黙知がまた「共同化」のプロセスに進み、組織の知識創造が繰り返される。
おわかりの通り、SECIモデルの主役は身体知(暗黙知)である。形式知への転換はあくまで、暗黙知を誤解のない形で共有するための手段に過ぎない。そして、他者に共有された形式知は再び「暗黙知に落ちてなんぼ」なのである。
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