2026-6-13 エフェクチュエーション①
サラス・サラスバシーが2001年に提唱した「エフェクチュエーション」は、それまでの「コーゼーション(予測と計画にもとづいたアプローチ)」に対する強力なアンチテーゼとなった。従来の起業論は「まず市場機会が客観的に存在し、それを分析・予測して、最適な計画を立てて参入する」という思想で説明されていた。まず正解があって、そこに向かってどれだけ正確な解を導き出せるか、という勝負だったのである。会社やスクールでそういう教育を受けたビジネスパーソンは多いであろう。
ところが、サラスバシーが熟達起業家たちから抽出した思考は全く異なっていた。彼らは市場を分析するのではなく、「今、ここにある手持ちの手段(私は誰か、何を知っているか、誰を知っているか)」から、とにかく具体的な行動(実践)を始め、他者とかかわりながら、結果として新しい市場を「創り出して(Effectuate)」いたのである。
すでに有名な理論なので多くの読者はご存じだと思うが、エフェクチュエーションの5つの原則を列記する。
・手中の鳥・・・すでに持っている「手持ちの手段(資源)」を活用することで「自分に何ができるか」を発想する。
・許容可能な損失・・・期待できるリターンの大きさでなく、「うまくいかなかった場合どこまでの損失を許容できるか」を基準に意思決定を行う。
・クレージーキルト・・・誰が顧客で誰が競合かを識別しようとしたり、市場の機会や脅威を予測したりせず、可能性のあるあらゆるステークホルダーとパートナーシップの構築を模索する。
・レモネード・・・結果としてパートナーからもたらされた「予期しない結果」を積極的に解釈し、偶然をテコとして活用しようとする。
・飛行機のパイロット・・・最適なアプローチを事前に予測しようとする代わりに、自分自身がコントロール可能な要素だけに行動を集中させる。
エフェクチュエーションは日本に紹介される際、主に商業的な理由から「明日から使える起業術」とか、「イノベーションの道具箱」といった、ややノウハウ本的な導入・翻訳が行われた。しかし、前回少し触れたように、本来は「実践的転回」の系譜に直接連なる学術的な理論体系である。そのあたりについて次回もう少し考えてみたい。
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