2026-6-16 埋め込まれたエージェンシーのパラドックス
これまで紹介してきたさまざまな変革の理論を根底から揺さぶるような「そもそも」論である。私たち自身が「当たり前」だと信じ込んでいる社会やルールの仕組みの中にどっぷりつかっていながら、どうしてそのルール自体を疑い、変革することができるのか、という矛盾(パラドックス)を突いた問いを「埋め込まれたエージェンシーのパラドックス」と呼ぶ。ここで言う「エージェンシー」は、いったん固定観念を離れて高みから全体を俯瞰する批判的な意思、くらいの理解でよいと思う。
このパラドックスを解かなければ、世の中に新しいビジネスモデルが次々と誕生する理由が説明できない。そこでこれまでに社会学や組織論の論壇から、いくつかの仮説要因が提起されてきた。代表的な説を以下に列記する。
①複数の制度の衝突・・・我々は一つの制度、一つのルールの中だけで生きているわけではない。「会社員としての論理(利益や効率性重視)」「親としての論理(家族重視)」「地域住民としての論理(環境や安全重視)」など、異なる複数の制度の中で生活している。それらが互いに相容れず、個人や集団の中で衝突したときに、既存の「当たり前」に対する批判的な視点が生まれる。
②外部的なショック・・・技術革新(生成AI の台頭など)、パンデミック、地政学的危機、成長重視への政策変更など外部の大きな変化により、これまで機能していた「当たり前」が揺さぶられ、人々は代替案を模索せざるを得なくなる。
③実践からの揺らぎ・・・どんなに強固な制度やルールであっても、それを実際に運用するのは人間である。現場でルールを適用する際、少しずつ独自の解釈やアレンジが加えられる。この、「日々の小さなズレ(運用の揺らぎ)」が積み重なることで、結果的に制度そのものが変化する。
近年の「パーパス経営」や「SDGs」の流れは①である。企業の論理が優勢であった社会に別の論理が挑戦し、その衝突に折り合いをつけるためのルール変更と言えよう。もっとも、体感的には新制度派組織論的な、「世間体第一」の対応でお茶を濁そうとしている企業がむしろ多数派である。②は常に生じうる要因であり、まさに現在これらのショックに対応を迫られている経営者は多いはずである。これはあくまでも外部環境変化に事後的に対応するもので、自ら変革を期する企業であればこんなものを待っているわけにはいかない。そして当コラムの読者は既にお気づきの通り、「実践論的転回」の文脈で自発的な組織変革を目指すのは③である。
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