2026-6-30 ものを納めてからが商売

かねて告知をさせていただいていた地元の商工会議所主催のセミナー登壇を終えた。「自店の良さは意外と自分には見えていない」「差別化は派手なアイデアではなく観察から生まれる」といった、やや抽象度の高いテーマだったが、受講者の皆さんはおおむねついてきてくれたようでホッとしている。アンケート等は取られていなかったので定量的なフィードバックは得られないが、その場で出た質問などから推測すると皆さん、「話はだいたい分かった。じゃあうちの店ならどうするのが良いか?」という立ち位置におられたようである。建築事務所から弁当屋さんまでさまざまな業種の方々であったから、90分でそこまでフィットさせるのはなかなか難しかった。

セミナー終了後、参加者の一人である表具屋のご主人が言われた言葉が印象的だった。

「あたりまえっちゃあ当たり前のことかもしれないんだけどさ。思い出したよ、じいちゃんの口癖。『ものを納めてからが商売だぞ』って」。

まさに今回のテーマである。うれしいというより、このご主人の理解の深さに凄みを感じた。「商品を売るより関係を作ること」「新規客より常連さん」「選ばれる理由はモノだけではない」といったセミナーのメッセージをこれほど端的に表現した言葉もない。マーケティング用語でいえばライフタイムバリューやロイヤリティということだが、昔の職人さんはそんな言葉を知らなくても、それこそ「実践知」として理解していたのであろう。

表具屋という業種を考えれば、「リピート」「紹介」「信頼」が事業の根幹であろう。ある意味コンサルタントとも似ている。だからこのご主人は筆者の話を自分ごととして捉えてくれたのだと思う。講師の立場とすれば、「いい話を聞いた」よりも「じいちゃんの言ってたことはやっぱり正しかったんだな」と腹落ちしてくれる方がずっとうれしい、というのも自分なりの気づきであった。

ドラッカーもコトラーも言わない、しかし本質を突いた言葉に出会えるのも、この商売の醍醐味の一つである。