2026-7-3 可視化の効用
アマビールを学んでの第一印象は「技術系の人が好きそうな理論だな」というものであった。筆者は文学部出身のド文系であるが、長く製造メーカーに勤めていたので、技術系の人のものの考え方に触れる機会も多かった。彼女の理論は、筆者の知る技術者たちの思考回路と親和性が高いように思う。
例えば、文系の人間がイノベーションを語ろうとすると、その背後にある「ひらめき」や「偶然」を強調しがちである。あるいはそれを生み出した人間の素養や生い立ちをストーリーにするかもしれない。実はそれは現象を語っているだけで、イノベーションの本質~なぜ誰も思いつかなかったことがその場で生まれたのか~を説明していない。アマビールはこのブラックボックスを開けようと思い立ったのだと思う。
まず、新しい発想を生み出す要素を分解して切り出す。アイデアが具現化するさまをプロセスに分解する。次はそれらを個人と組織に分解し、最後に各要素の関連性を矢印で示す。極めて工学的な発想である。
例えば「品質管理の向上」と言ったとき、スローガンのままでは何も変わらない。品質を「設計品質」「製造品質」「検査品質」に分解し、どの部分を向上させるのかを決める。決めたら今度は、例えば製造ラインを分解してネックの工程に焦点を当てる。技術者が自然に行うこうした思考を、アマビールはていねいになぞっている。だからおそらく、「イノベーション? 俺には関係ねえよ」とおっしゃる製造現場の人も、アマビールの図を見れば「なるほど、ここがボトルネックか・・・」と腑に落ちるのではないかと思う。
ここで詳しくは述べないが、アマビールの理論は、その多くの要素がイノベーションの国際マネジメントシステムである「ISO56000」シリーズに採用されている。ISOだから「一人の天才に頼る」という体系を作るはずもなく、イノベーションを組織的に起こすための手法を取り扱うのだが、そのマネジメント思想の根底にあるのが「環境づくり」なのである。企業や組織が取り組みやすい切り口ではある。
しかし、その内容より先に、アマビールの理論を広く普及させた要素があると筆者は思う。それが「可視化」の効用である。誰もが本能的に理解できる表現の仕方、すなわちビジュアルの力がそこには大きく働いている。支援者として、例えばクライアントや金融機関に自分の考えを説明する際、意識しておくべきことであろう。一目でわかるように準備しておく・・・もちろん経営者や、ビジネスマンの方にも役立ててほしい考え方である。
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