2026-7-19 人はなぜ挑戦しないのか
フォードの理論に沿って「人が挑戦しない理由」を少し深掘りしてみたい。
まず考えられるのは、挑戦するために十分な知識やスキルを持っていない、という場合である。いくら魅力的に見えても、自分たちが得意とする、あるいは実績のある能力を生かしてくれるものでなければ、それは自分たちにとっての機会とは言えない。トヨタが微細半導体事業に参入する、というのは、少なくとも近い将来には考えにくい。
相性ということもある。技術やノウハウとしては近く見えても「手が合わない」という分野はあるものである。例えば筆者の顧問先は、卸売は得意だが小売はあまりうまくない。同じ商品を扱っていても、この会社にとって両者は全く別物である。
二番目の理由として考えられるのは、当事者に興味が湧かない場合である。知識やスキルは十分にある。必要なら人もおカネもつける、という場合であっても、本人にやる気がなければ物事は始まらない。「あまり面白くなさそう」とか「意義を感じない」といった内発的な動機であれば、本人の生まれ育ちや価値観の問題であるからどうしようもない。だがこれがもし「やっても評価されないし」とか「余計な仕事が増えるだけで給料変わらないし」とかいう話であれば、あとで述べる「外部環境」の誘因で変えられる可能性がある。
三番目は「納得感」である。フォードは「センスメイキング」と呼ぶ。個人的に興味はあっても、「この会社としてやるべきことなの?」とか「なぜ担当が自分なの?」という疑問がわく場合がある。これをこのままにしておくと「やったふり」やなし崩し的な「たなざらし」といった現象が起きる。この点、上司は単に指示するのではなく、部下の仕事に意味づけをし、本人に腹落ちさせる責任がある。
そして、もう少し視野を広げてみると、その人を取り巻く環境の問題がある。上の三つの条件がそろったとしても、例えばその人のまわりに過去挑戦した人がいない、であるとか、挑戦して得をした(偉くなったとか給料が上がった)人を見たことがない、ということであれば二の足を踏まざるを得ない。こんな例を考え始めると、例えば「評価制度が減点主義」だとか、「もともと手一杯なのに他の仕事を減らしてくれない」とか、「直属の上司はいい顔をしていない」とか、いくらでも思いついてしまう。お分かりのように、この「環境」の問題が厄介なのは、組織の構造や評価制度、といった目に見えるものから、風土や感情といった見えないものまで、話がどこまでも広がってしまうところである。
経験論だが、三番目の「納得感」と四番目の「環境」によってだけでも、人の挑戦する姿勢はずいぶん変わる。そして、経営者がすぐに変えることができる要素もこのふたつである。新しいことに取り組みたいと願うのであれば、まずこのあたりに気を配ってほしい。
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