2026-7-27 イノベーションと東洋の文化

つい10年ほど前まで、日本を含む東洋の企業はイノベーション研究のまともな対象ではなかった。「東洋人は創造性が低い」という先入観が学会を支配していたと言える。これに敢然と異を唱えたのが、中国の周静(Jing Zhou)である。彼女は東西の文化を比較し、東洋には東洋に適したイノベーションのやり方があることを説いた。

一般的に西洋の文化には「個人主義」「独創性重視」「挑戦歓迎」「リスク許容」「異議を認める」といった特徴がある。東洋はこれらとの比較で「集団主義」「有用性重視」「調和優先」「リスク回避」「上位下達」である。確かに、一見するとイノベーションには不利な特性が並んでいるように思える。しかし周は、話はそう簡単ではないと言う。

彼女がまず注目したのは「何を創造性と呼ぶか」という点である。西洋では単に新しいことが創造性と呼ばれやすい。一方、東洋では社会的に役立つことが評価されるという特徴がある。つまり、創造性という言葉に内包される「新規性」と「有用性」という二要素のうち、西洋は前者を、東洋は後者を重視する傾向がある。どちらがどうという話ではなく、価値観の問題だと言うのが周の主張である。

さらに彼女は、東洋の企業にも優秀な社員は多いのにアイデアが出てこない現象について、それは個人の能力ではなく、例えば「上司の顔色」「場の空気」「失敗への許容度」といった要素によるものだと喝破した。文化そのものと言うより、文化に根差した「組織設計」の問題であると。つまり「文化だから仕方ない」ではなく、「文化を踏まえてどのように組織を設計するか」のほうが重要であると説いたのである。

「東洋」とひとくくりにすると拡散するから、日本企業に絞って話を進めよう。周の説に従えば、新しいことをやるのに必ずしもアメリカの真似をする必要はない。破壊的な変革より改善が得意なら、その業務プロセスを踏襲した「探索」の仕組みが作れるかもしれない。もっと小さく、例えば挑戦して失敗した社員を皆の前でほめることから始めてもいいかもしれない。このあたりはガルブレイスのスターモデルに直接つながる論点である。

既に述べてきた通り、イノベーション研究は当初、個人の創造性に焦点を当てていた。しかし近年では、文化や組織環境のほうが大きく創造性を左右することが明らかになってきている。西洋と東洋の違いは「創造性の優劣」ではなく、「何を創造性と評価するか」の違いでもある。そして、企業の取り組むべき課題は、文化そのものを変えることではなく、その文化の中でも挑戦を促す組織環境を設計することであろう。