2026-8-1 戦略を「人」で変える

戦略を変える主要な手段として「人」を使う、というのは、実は経営戦略や組織論の中にはあまり出てこない。組織をごろッと変える「変革者」の能力を持った人間などそうそういないし、いたとしても「会社を変えられる人を探してきて責任者に据えましょう」では再現性がなくて理論にならないからであろう。しかし、現実の世界では、経営者はこの手法を使いたがる。下請けから脱皮したいからマーケティングの専門家を探す、自社の独自製品を出したいからデザイナーを採用する、といったことである。経験から言うと、こうしたやり方はたいていうまくいかない。

理由はいくつか考えられる。ガルブレイスが言うように、「人」は戦略遂行に必要ないくつかの要素のうちの一つに過ぎず、それだけを変えても全体はおいそれと変わらない、ということもあるだろう。最初は勢い込んで来ても、そのうちに社内の空気になじんでしまって何も変えられずにいるか、あるいは最後までなじめずに自分から辞めてしまう、といったケースをよく見聞きする。

それでも、うまくいった事例がないわけではない。一つは素材商社が完成品の販売に乗り出そうとしたときの話である。この商社は事前に、自社に欠けている能力を丹念に分析した。そこで出した結論は、必要なのは組立ノウハウや検品といった技術的なスキルではなく、完成品の顧客ニーズと商習慣を良く知り、自社の人材をそれらに適合するよう動かせる人間である、ということであった。彼らは得意先からこれという人物をヘッドハンティングし、完成品のビジネスは2年間で数倍になった。

実はこの人物は転職後、無駄と思えるほどの時間をかけてプロパー社員とコミュニケーションを行っている。そして本来構想していた自分なりのプランを修正し、この会社に実現可能な手順に組み直した。このあたりは属人的な能力とも言えるが、最初からその能力を特定してリクルーティングした経営陣の「目利き」の勝利である。

もう一つうまくいった事例がある。こちらは「同じ人間が変わった」というケースである。従来型のビジネスが立ち行かなくなったことを思い知らされたあるメーカーの販売リーダーは、自費で外部研修を受け、異なるビジネスモデルを自ら立案して経営陣に具申した。曲がりなりにも立ち上がったその部署は、最初事務方の助手一人をつけられただけの小さな所帯であったが、今は数千万円の利益をたたき出す6、7人のチームに成長している。

この二つの話の共通点は、必要とされるスペックが特定されており、かつ調達が可能であった、ということである。調達の方法として、前者は採用、後者は学習によって、という違いはあるが、どちらのケースも求められる能力の解像度が高かった。上司の理解ということもある。どちらも事業が形になるまである程度の時間がかかっているが、上司が辛抱強くサポートしており、当事者を「一人」にしていない。こちらはガルブレイス的に言うと「プロセス」の話かもしれない。

サラリーマンとして、あるいは支援者として、40年間たくさんの商売を見てきたが、「人」で戦略を変えることができた事例はこの2つくらいしか思い浮かばない。試行回数、つまり分母は数十か、もしかしたら100を超えているかもしれない。なので結論を言えば、確率論的にはあまりお勧めできない。先ほど述べた成功要因にしても、事例が2つでは普遍的なものかどうかの判断がつかない。経営者の皆さんは「手っ取り早く頭をすげ替える」というやり方は頭から外しておく方が無難だと思う。

<関連記事>

2026-5-19 ガルブレイスのスターモデル