2026-8-23 イノベーションを「会社の仕事」にする

これまでのシリーズで、「機会を探す」「顧客に聞く」「小さく試す」「失っても良い範囲を決める」「協力者を巻き込む」「想定外を生かす」といった、イノベーションの実践法について考えてきた。しかし、これを社長一人や、一部の「変わった人」だけでやっていても、会社としての力にはならない。新しいことが継続的に生まれる会社にするには、それを支える相応の仕組みが必要になる。ここからはしばらく「イノベーション・マネジメント」の話になる。理論の話は少し前にしたが、ここではごく現実的な問題として、例えば「誰がやるのか」「どこまで任せるのか」「どう評価するのか」といった点を考えていく。

経営者というものはつい、「社員の意識を変えたい」と考えるものである。会社という公器を預かっている、という意識の高い経営者ほどそういう傾向がある。人を育てることも仕事だと心得ているからであり、それはそれで尊い。しかし一方で、人の意識を直接変えることほど難しいこともない。昔の徒弟制度ならいざ知らず、今の世の中、社長と社員という関係の中で、ある人の考え方が大きく変わるなどということは稀有であろう。

それよりも経営者の皆さんには、「環境を具体的に変えていく」ということをお勧めしたい。例えば「行動できる時間を作ってあげる」、「小さく試せる予算をつけてあげる」、「ある程度の失敗を認める」、「結果でなく挑戦したことを評価する」といったことである。環境が変われば、行動は変わらざるを得ない。行動が変われば社員の経験が変わる。経験が変われば意識も変わる。これが「仕組み」である。少しずつだし、遠回りではあるが、こちらの方が確実に効く。最初にアプローチすべきは社員の意識ではなく、具体的な環境である。

「社員が新しいことをやらないほうが得、という仕組みが、自分の会社にないか?」

一つでも思い当れば、社員の意識を変えようとする前に、まずそこを変えてみることである。

「新しいことをやれ」と言うだけでは誰もやらない。人を変えたいなら、まず人が動くよう「仕組み」を変えてみてほしい。