2026-8-26 エースを抜けない会社で、誰がイノベーションをやるのか?

前回は、「イノベーションのための時間は経営者が作るもの」という話をした。日々の仕事に追われているだけでは、新しいことはいつまでたっても始まらない。だから経営者が意識して「未来のための時間」を確保する必要がある。そこで、次の問題である。時間を作ったとして、新しい仕事を誰にやってもらえばいいのか。

経営者と話をしているとたいてい、「若手にやらせてみよう」「新しいことが好きそうな人に任せよう」「あの人なら手が空いていそうだ」という話になる。幹部で会議をやってもだいたい同じような議論になり、それまで「やるべし」と盛り上がっていた場が急に、「自分以外で・・・」あるいは「自分の部下以外で・・・」という逃げの空気に変わる。

しかし、断言してよいが、イノベーションを「まだ修行中の若手」や「もともと暇な人」に任せてうまくいくことはまずない。そういう人は、「ゴールを決めてそこに向けて手順をスケジュール化する」「必要な資源を調達して配分する」「人を巻き込む」といった力量が相対的に弱い。いわば「マネジメント力」に問題があるのである。だから周囲から重要な仕事を任されることがなく、結果として手が空いている。不確実なことだらけの新規事業をノーコントロールな人が始めたら、収拾がつかなくなることは目に見えている。

それではどんな人を選ぶのが良いか? ドラッカーは「イノベーションと企業家精神」第13章で、企業家精神のために特殊な人材を探す必要はない、という趣旨のことを述べている。別に新しい物好きや変わり者でなくてよい。普段の仕事で成果をあげ、きちんとマネジメントができる人なら、企業家的な仕事もできる、と。これは中小企業にとっては、少し安心できる話である。「うちには新規事業をやれるような人材はいない」と考える必要はない。すでに会社の中でしっかり仕事をしている人がいるはずだ。その人が候補者である。

ただし、である。ここで現実にぶつかる。普通の仕事で成果をあげ、マネジメントもできる人。そんな人はたいてい、既存事業の中核にいる。営業なら最重要顧客を担当している人。製造なら現場を知り尽くし、皆が相談にくる責任者。こういう人たちに「じゃ、明日から新規事業専任で」と言えるだろうか。そんな余裕のある中小企業は、ほとんどないと思う。

だから、現実的には、0か100かで考えることは難しい。その「できる人」に新しいことを兼任してもらう、というのが現実解である。この部分は実は、イノベーション・マネジメントの教科書とは違う。教科書には「新規事業は既存事業から完全に切り離して運用する」と書いてあるのだが、これはよほど人員に余裕のある大企業の話だと考えたほうが良い。もちろん、兼務してもらうにしても注意点はある。次回はその話をしようと思う。