2026-9-2 現状維持は最大のリスク

マクロで見れば実質賃金を上げて消費を増やさなければ国の経済が持たない。ミクロで見ると給料を抑えれば人が採れず会社が立ち行かない。いずれにしても賃上げをやるしかないことはわかった。しかし実際のところ、多くの中小企業にはそんな余裕はない。中小企業白書によれば、中小企業の2024年度の労働分配率は74.4%、小規模企業では81.5%である。これは、会社ががんばって稼いだお金の約8割が賃金として還元されているということを意味する。この状態でこれ以上賃上げをすれば、来年、再来年と会社を続けていくための資金が枯渇しかねない。いくら賃上げが必要だと言っても、会社が続かなければ元も子もない。

これが白書の言う「現状維持は最大のリスク」の意味するところである。これまでと同じ仕事を同じようにやっていたのでは会社は持ちませんよ、だから何か手を打ちましょう、というのが今年の白書の最大のメッセージだと理解して差し支えない。仕事がら白書には毎年目を通しているが、これほど強く現状維持を否定したトーンはこれまでなかった。

何が言いたいか、そろそろおわかりいただけたのではないかと思う。ここしばらくこのコラムでは「新しいことをやりましょう」と言い、そのためにどうしたらいいかについて具体的に説明してきた。実はこの「新しいこと」、国も「やるべし」と言っているのである。

それではその新しいことについて、国は具体的に何をやったらいいと言っているのか。お役所っぽいのだが、実は白書では、この部分は生産性の計算式で説明されている。

生産性=産出量(アウトプット)/投入量(インプット)

もうけを増やすというのは生産性を上げることと同義である。生産性を上げる方法は、一つは、同じ投入量で産出量を増やすこと、すなわち上の計算式の分子を大きくすることである。営業員の数を増やさず販売量を増やすとか、商品の値段を上げる、といったことがこれに当たる。もう一つのやりかたは、産出量は変わらないが投入量を減らして利ざやを増やすこと、すなわち分母を小さくすることである。歩留や工程を見直してコストを下げる、仕事の流れを見直して無駄を省く、といった施策がこちら側である。

回りくどいが、要するに「(利益を伴う)売上を増やす」か、「費用を減らす」かどちらかだ、という当たり前のことを言っている。そして、分母に当たる「投入量」にはもちろん人の労働力が含まれる。労働力は人件費で計算するから、先ほどからの議論で、この部分は(従業員の顔ぶれが変わらないなら)もう上がることが確定である。なのでなおさら、「労働力以外」の要素を良化させることが必要になってくる、というのである。

ドラッカーの著書からの二次引用だが、フランスの経済学者J.B.セイは「企業家は、経済的な資源を生産性が低いところから高いところへ移す(「イノベーションと企業家精神」第1章)」と言ったそうである。200年以上も前のこの言葉の実践を、現代の企業家は求められている。