2025-10-18 組織学習の制約

社会的学習論においては、組織学習を妨げる4つの制約パターンがあるとされる。

・役割制約的学習・・・個人に与えられた役割や立場によって、学び方や考え方、行動に制約がかかった状態。「まだ新入社員だから」「女だから」「上司としては」といった意識が学習行動にバイアスをかける。

・傍観者的学習・・・組織内の個人が学んだ新しいスキルや知識が、組織全体の行動や成果に結びつかない状態。組織内のコミュニケーションの不足、無関心、「人は人」といった個人主義的な組織文化が学びを妨げる。

・迷信的学習・・・組織としての学びは行われているが、学習した内容が誤っており成果が現れない状態。過去の成功体験に固執しているケースなどが典型的である。

・曖昧さのもとでの学習・・・組織の学習がもたらした結果を適切に解釈できず、組織内の個人にフィードバックされない状態。何らかの変化は生じたのだが、どんな行動が効いたのかわからず、メンバーの学びにつながらない。

こうした現象は、認知パターンの固定化、強固なルーティンの存在、部門間の壁などが要因とされ、特に組織が安定した状態にあるときによく観察される。対策としては心理的安全性の確保によるコミュニケーション活性化、柔軟に変化できる組織文化の醸成、データに基づいた意思決定、プロジェクトやマトリクス組織を活用した役割バイアスの除去、等が挙げられるが、ことはそう簡単ではない。

例えば心理的安全性だけを取ってみても、ハーバード大のエイミー・エドモンドソンによりこの言葉が提唱されたのが1999年、グーグルの「アリストテレス・プロジェクト」の開始は2012年である。日本で流行り始めてからでももう10年近くは経つと思うが、この間に組織行動が劇的に変化した、という企業の事例をほとんど聞いたことがない。組織学習の制約はそれほどまでに強いものであり、意図して学習行動を根づかせるのは至難の業なのである。

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